【個人事業主向け】開業届とは?メリット・デメリットと提出までの手順を解説

個人事業主として開業独立するのであれば、開業届を出しましょう。社会的な信用が増すだけでなく、確定申告で青色申告を選択すれば、所得から最大65万円を控除できます。

ただし開業届を提出すると、失業手当が受けられなくなったり、家族の扶養から外れてしまったりする可能性があります。

開業届の注意すべき点についても、よく理解した上で提出するようにしてください。

この記事では、開業届を提出するメリット・デメリットや、提出時に必要な書類、提出方法まで詳しく解説します。

後半では、よくある質問をQ&A形式で紹介しています。開業や独立を予定している方は、ぜひ参考にしてください。

開業届とは?

開業届とはどのような書類で、いつまでに提出しなければならないのでしょうか。初めに開業届の概要と、提出期限について解説します。

開業届

開業届とは、個人が新たに事業を始めたことを、税務署に知らせるための書類です。

手続きの対象となるのは、事業所得や不動産所得、山林所得が継続的に生じる人であり、営利性が低く事業と認められない程度の収入(雑所得)や、突発的な収入であれば届出は不要です。

開業届の正式名称は「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、ちなみに事務所を新設したときだけでなく、増設や移転、また廃業した際にも届出が必要になります。

参照:

【国税庁】個人事業の開業届出・廃業届出等手続

【所得税法】令和5年10月1日 施行 労働者協同組合法等の一部を改正する法律(令和四年法律第七十一号)

 

開業届の提出期限

開業届の提出期限は、所得税法(第229条)により「事業を開始してから1カ月以内」と定められています。

では、事業を開始した日とは、正確にはいつになるのでしょうか。

具体的には、店舗や事務所を開店した日やフリーランスとして請負契約を結んだ日、営業活動を始めた日などが事業を開始した日になります。

なお提出期限が平日ではなく、土・日・祝日等に当たる場合は、その翌日が期限になります。

参照:

【国税庁】個人事業の開業届出・廃業届出等手続

参考:

【国税庁】新たに事業を始めたときの届出など

【所得税方】労働者協同組合法等の一部を改正する法律(令和四年法律第七十一号)

個人事業主が開業届を提出するメリット

開業届 メリット

開業届を提出すると、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、代表的なメリットを5つ紹介します。

青色申告の特別控除(最大65万円)が使える

開業届を提出すると、確定申告で「青色申告」を選択でき、所得金額から最大で65万円を控除できます。

青色申告とは、一定の要件を満たす帳簿を作成し、その記帳内容に基づいて所得金額や税額を計算し、確定申告により納税する制度です。

青色申告は、手続きや帳簿の作成がシンプルな「白色申告」に比べて税制面での優遇が多く、一定の要件を満たす必要はありますが、最大で65万円を所得金額から控除できるのが魅力です。

控除額 複式簿記(正規の簿記の原則で記帳) 貸借対照表と損益計算書を添付 期限内に申告(翌年の3月15日まで) e-Taxで申告、もしくは優良な電子帳簿保存
65万円
55万円
10万円 簡易な記帳 —(損益計算書の添付は必要)

配偶者や親族へ支払った給与を経費として算入でき、損失が生じた場合は、最長3年間にわたって赤字を繰り越すことができるのも、青色申告のメリットです。

例えば1年目に100万円の赤字が出た場合、2年目に500万円の利益が出たとしても、400万円の利益として確定申告できます。

ただし青色申告を選択する場合は、開業の日から2カ月以内に「青色申告承認申請書」を税務署(納税地)に提出する必要があります。

開業をすると忙しくなり、提出し忘れてしまう可能性があります。基本的には、開業届と一緒に提出するようにしましょう。

参考:青色申告特別控除

【国税庁】所得税の青色申告承認申請手続

【国税庁】所得税の青色申告承認申請書引用:はじめてみませんか︖青色申告

屋号で銀行口座を開設できる

金融機関へ開業届を提示することで、屋号で口座を開設できるようになります。

個人用と事業用の口座を分けることができるため、支出や収入、残高が明確になり、帳簿づけや仕訳作業がしやすくなるのがメリットです。

会計ソフトと事業用口座を連携すれば、帳簿作成が自動ででき、経理的な作業の効率化も図れます。

また取引先へ請求書を発行する際に、屋号付きの口座を提示できるため、信頼度アップにもつながります。

開業届を提出したら、金融機関で事業用の口座を開設しておきましょう。

小規模企業共済に加入できる

開業届を提出すれば、開業した年から小規模企業共済へ加入できます。

小規模企業共済へ加入する際は、確定申告の写しか開業届の控えが必要になるため、初年度から加入したい場合は、開業届の提出が必須になります。

小規模企業共済とは、退職金の代わりとなる「共済金」を積み立てる制度で、廃業や退職時に退職金として受け取ることができます。

個人事業主には、退職金はありません。小規模企業共済の掛金は全額控除できるため、節税にもつながります。

また掛金の範囲内で事業資金の貸し付けも受けられるため、小規模企業共済への加入も検討してみましょう。

社会的な信用度がアップする

会社員として従事していた方は、あまりピンと来ないかもしれませんが、開業届を提出することで、社会的な信用度が増します。

開業届の控え(写し)は、個人事業主として事業をしていることの証明にもなるからです。

例えば開業届の控えは、金融機関で口座を開設する際だけでなく、事業用ローンを借り入れる際や、事業用のクレジットカードを作る際にも必要になります。

ほかにも、保育園に入園を希望する際は、開業届(写し)が就労証明書類となります。開業届が必要になってから焦ることがないように、今後必要となる場面がないか確認しておきましょう。

参考: 【大田区】申込みに必要な書類

補助金や助成金を申請できる

開業届を提出することで、国や自治体の補助金や助成金に申請できるようになります。

各種補助金や助成金を申請する際に、開業届の控え(写し)が必要書類となるのが一般的です。つまり開業届を提出していないと、そもそも申請ができません。

例えば持続化補助金(小規模事業者持続化補助金)や事業承継・引継ぎ補助金、自治体独自の補助金などを申請する際は、基本的には開業届が必要になります。

また不要な場合でも、開業届を出していないと不利になることがあります。

補助金や助成金の利用を検討しているのであれば、開業届は提出しておきましょう。

参照:
【中小企業庁】小規模事業者持続化補助金について

【日本政策金融公庫】「事業承継・引継ぎ補助金〈経営革新事業〉」申請のポイント

個人事業主が開業届を提出するデメリット

開業届の提出には、デメリットもあります。開業届を提出してから後悔しないためにも、デメリットになる点もよく確認しておきましょう。

ここでは、開業届を提出するデメリットと、注意すべきポイントについて解説します。

失業手当を受けられなくなる(事業開始のタイミングに注意)

開業=就業と見なされるため、開業届を提出すると、失業手当(失業保険)を受けられなくなる可能性があります。

会社を退職後に、失業手当の受給を想定しているのであれば、事業を始めるタイミングに注意しましょう。

ただし失業手当を受けられなくなったとしても、開業することで「再就職手当」をもらえる可能性があります。

再就職手当とは、早期再就職を促進するための制度で、例えば支給日数を所定給付日数の2/3以上を残して早期に再就職(開業)できた場合は、基本手当の支給残日数の70%の額が支給されます。

再就職手当の支給を受けるためには、いくつかの要件を満たす必要があります。

失業認定を受ける前に開業届を提出してしまうと、再就職手当の支給要件から外れてしまいますので注意してください。

まずは支給要件を確認し、ハローワークへの再就職手当支給申請書の提出を忘れないようにしましょう。

参照:

就職促進給付に関するQ&A|東京ハローワーク

再就職手当について|ハローワーク

参考:

【厚生労働省】再就職手当について

配偶者の扶養から外れる可能性がある

開業届を出すことで、家族が加入している健康保険の扶養から外れる可能性があります。その場合、国民健康保険や年金の保険料を自己負担することになります。

健康保険組合によっては、個人事業主として開業している人を、収入金額に関係なく扶養の対象から外すケースもあり、その判断は健康保険組合によって異なります。

ちなみに税法上の扶養と、社会保険上の扶養では、基準が異なります。

税法上の扶養は、所得が58万円(令和7年分から適用)を超えると、配偶者控除の対象から外れますが、配偶者特別控除は段階的に受けられます。ただし133万円を超えると、配偶者特別控除も対象から完全に外れます。

社会保険上の扶養は、年収が130万円の所得が見込まれる場合、社会保険の扶養から外れることになり、国民健康保険と国民年金を自身で支払わなければならなくなります。

ただし健康保険組合によっては、年収ではなく収入(売上から経費を差し引いた金額)で判断するケースもあります。

また年度によって税制が改正となることもあるため、開業届を提出する前に、扶養の要件について確認しておくとよいでしょう。

参照:

【国税庁】配偶者控除

【厚生労働省】「年収の壁」への対応

【日本年金機構】従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き

確定申告が必要になる

開業して一定以上の所得が発生したら、確定申告が必要になります。

開業届を提出しているか否かに関わらず、給与や退職所得以外の年間所得が20万円を超えるときは、確定申告が必要になります。

確定申告は少々煩わしいと感じるかもしれませんが、青色申告を選択して確定申告することで、所得から最大で65万円控除でき、また赤字は3年間繰り越せます。

確定申告は節税にもつながる手続きですので、日頃から帳簿をつける習慣をつけましょう。

参照:確定申告が必要な方

開業届を提出しなかったときの罰則

事業を始めたら、原則1カ月以内に開業届を提出しなければなりません。

では開業届を出さなかったときは、どうなるのでしょうか。また、開業届を提出する必要がない人がいるとしたら、それはどのような人なのでしょうか。

ここでは、開業届を出さなかったときの罰則と、開業届の提出が不要な人について解説します。

開業届を提出しなくても「罰則」はない

実は開業届を出さなくても、罰則や罰金はありません。また、事業を開始してから1カ月以内に届出を提出しなかったときも、ペナルティがあるわけではありません。

ただし開業届を出すことで生じるデメリットよりも、開業届を提出することで得られるメリットのほうが大きいのであれば、早めに提出するようにしましょう。

開業届を出す必要がない人

突発的な収入で、今後継続して収入を得られる可能性がない場合は、開業届を出す必要はありません。

また、そもそも給与や退職所得以外の年間収入が20万円を超えない場合は、確定申告も不要です。

開業届を提出する際に必要な書類

開業届 必要書類

開業届を出す際に必要となるのは、以下の書類です。

  • 個人事業の開業・廃業等届出書
  • マイナンバーカード(個人番号)
  • 免許証(本人確認)

なお青色申告を選択する場合は、開業から2カ月以内に「青色申告承認申請書」を届け出ることを忘れないようにしてください。

開業届の提出方法・手順

開業届提出に必要な書類を準備できたら、いよいよ提出です。ここでは、開業届を提出する3つの方法と、提出までの手順を解説します。

開業届の提出方法は3種類

開業届の提出方法には、「税務署の窓口へ提出」「税務署へ郵送」「e-Tax(オンライン)で提出」の3種類があります。

それぞれにメリット・デメリットがありますので、ご自身に合った提出方法を選ぶようにしてください。

  • 税務署の窓口へ提出

税務署へ直接提出する場合は、平日の開庁時間内(8時30分~17時)に足を運ばなくてはなりませんが、その場で開業届の「控え」を受け取れるのがメリットです。その日のうちに、金融機関で事業用口座を開設することもできます。

不備がないかチェックしてもらうこともできるため、対面で相談してから提出したい方にも向いています。

  • 税務署へ郵送

開業届と必要書類を、郵送で送ることも可能です。

自分のタイミングで提出できるので、平日に時間を確保できない方や、税務署までのアクセスが悪い方に向いています。

ただし郵送で提出すると、開業届の控えが届くまでに1週間程度かかります。口座開設や保育園の就業証明などで開業届の控えが必要な場合は、余裕を持って計画するようにしてください。

  • e-Tax(オンライン)で提出

e-Taxを利用して開業届を提出すれば、郵送のための切手代や、税務署までの交通費もかかりません。

メンテナンス時間を除いて24時間いつでも作成・提出ができるので、忙しい方におすすめです。

ただしマイナンバーカードの読み取りに対応しているスマートフォンが必要になり、利用者識別番号の取得など、初期設定が必要になります。

確定申告もe-Taxでできますので、オンラインで確定申告を予定している方は、この機会に準備しておくとよいでしょう。

参照:e-Taxの開始(変更等)届出書とは

参考:【国税庁】個人事業の開業届出・廃業届出等手続

e-Taxの利用可能時間

ステップ1:開業届の申請書を入手する

まず、開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)を入手しましょう。税務署の窓口でもらうか、国税庁のWebサイトからダウンロードします。1枚は税務署へ提出し、もう1枚は控えになります。

e-Taxで開業届を提出する場合は、「e-Taxの開始(変更等)届出書作成・提出コーナー」のオンライン上で開業届の作成ができます。

参照:個人事業の開業・廃業等届出書

e-Taxの開始(変更等)届出書とは

ステップ2:開業届の申請書を記入する(入力する)

次に、開業届に必要事項を記入(入力)します。

開業届 申請書
  • 納税地・氏名・生年月日

納税地の欄は、「住所地」「居住地」「事務所等」のいずれかにチェックを入れて、その住所を記載します。税務署長宛てに提出するため、納税地を管轄する税務署が分からない方は調べて記入してください。

なお電話番号は、携帯の電話番号でもかまいません。加えて、ほかに住所がある場合は、その下の欄に記入します。

続いて氏名、生年月日を記入します。

  • 個人番号

マイナンバーカード、または通知カードに記載されている番号を記入します。

  • 職業・屋号

業種によって税率が異なるため、記入する際は注意しましょう。屋号を記入する欄がありますが、屋号がない場合は空欄でもかまいません。

  • 届出の区分

新規に開業する場合は、「開業」にチェックを入れます。

  • 所得の種類

所得の種類を選び、チェックを入れます。事業を始める場合は、「事業(農業)所得」です。

  • 開業・廃業等日

開業した年月日を記入します。

  • 事業所等を新増設、移転、廃止した場合・廃業の事由が法人の設立に伴うものである場合

新規に事業を始める場合は、これらの欄は空欄でかまいません。

  • 開業・廃業に伴う届出書の提出の有無

開業に伴い、青色申告を選択する場合や消費税の課税事業者を選択する場合は、それぞれ「有」を選択し、チェックを入れます。

  • 事業の概要

上記で記入した職業を、より詳しく説明します。職業を「不動産業」とした場合は、売買仲介や建物管理など、さらに分かりやすく記入します。

  • 給与等の支払の状況

現時点で決まっている従事員数と、給与の支払い方法を記入します。

専従者(家族)・使用人(家族以外)の人数と合計人数、月給とするのか、もしくは日給や時間給なのかを記載しましょう。

税額の有無とは、源泉徴収するか否かを意味します。給与を支払う場合は、原則源泉徴収します。

  • 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出の有無

給与を支払う従業員が常に10人未満である場合、承認を受けることで年2回にまとめて源泉所得税を納めることができます。特例を利用する場合は、「有」にチェックを入れます。

  • 給与支払を開始する年月日

給与を支払う予定日、もしくは支払った日付を記入します。

ステップ3:開業届と必要書類を提出する

開業届に必要書類を添えて提出します。

税務署に直接提出する、もしくは郵送で提出する場合は本人確認書類の提示、もしくは写しの添付が必要になりますが、e-Taxで開業届を提出(送信)する場合は不要です。

参照:【国税庁】個人事業の開業届出・廃業届出等手続

開業届に関するよくある質問

開業届 よくある質問

最後に、開業届に関するよくある質問を、Q&A形式で紹介します。開業を予定している方は、ぜひ参考にしてください。

開業届の提出先は、どこの税務署でも大丈夫ですか?

開業届は、納税地を管轄する税務署へ提出する必要があります。

原則は住民票がある住所地を管轄する税務署になりますが、事務所や店舗を設ける場合は、その住所を納税地として選択することも可能です。

管轄する税務署が分からないときは、以下の国税庁のホームページから調べることができます。

参照:【国税庁】税務署の所在地などを知りたい方

失業手当を受給中ですが、開業届を提出できますか?

失業手当を受給中でも、開業届は提出できます。ただし開業は就業と見なされるため、失業手当の支給がストップしてしまう可能性があります。

一定の条件を満たせば、開業は再就職したことになり、「再就職手当」をもらえる可能性があります。

開業日によっては対象から外れてしまうため、開業届を出す前にハローワークに相談するようにしてください。

開業届提出後、ハローワークに「再就職手当支給申請書」を提出しましょう。無事承認となれば、1~2カ月後に指定した口座に振り込まれます。

事業を開始してから1カ月を過ぎてしまいました。罰則はありますか?

開業届は、法律上「事業開始後1カ月以内の提出」がルールですが、罰則や罰金はありません。

提出を予定しているのであれば、早めに行いましょう。なお事業開始から1カ月以上経っている場合でも、開業届は受理されます。

虚偽の日付を記入する必要はありませんので、事業を開始した日付で提出するようにしてください。

青色申告を選択する場合は、事業開始後2カ月以内に「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。

期限を過ぎてしまうと、今年度は白色申告になってしまい、税金面で損をしてしまうかもしれません。

開業届の提出とともに、青色申告の申請もしておきましょう。

まとめ

開業届を提出すると、失業手当や配偶者の扶養から外れる可能性もあるため、慎重に検討する必要はありますが、開業届を提出することで、青色申告を選択できます。

青色申告にすれば所得金額から最大65万円を控除でき、ほかにも事業用口座の開設や、補助金や助成金の申請、初年度からの小規模企業共済への加入などができるようになります。

事業を始めると忙しくなりますが、開業届は1カ月を目途に提出しましょう。