開業費とは|開業費の範囲や節税方法、開業日の定め方を解説

個人であっても、法人であっても、事業を始める際には多くの費用が必要になり、その費用は会計上「開業費」として計上されます。

この記事では、開業費とは何か、開業費の範囲、会計上のポイント、開業日の定め方など、開業費に関連する内容について解説します。

正しい知識を持たないまま勢いで始めてしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。正しい知識を身に付け、会計や節税に活かしましょう。

創立費と開業費の違い

開業までに必要な費用は2種類あり、開業費と創立費があります。開業費と創業費は同じような言葉ですが、意味は違うため混同しないように注意が必要です。

創立費とは

創立費とは、会社を設立する際に、法的に認めてもらうための作業に必要な費用です。創立費に例えば、以下のようなものが含まれます。

・定款を作るための印紙代

・定款を認証する際の公証人の手数料

・設立登記のための登録免許税

・株式会社の場合は、株式申込証や目論見書などを準備するための費用

開業費とは

開業費とは、開業の準備のためにかかった費用のことを指し、開業準備費とも呼ばれています。具体的には、登記を完了した後から、実際に営業活動を始めるまでの期間に「特別に支出した費用」というように定義されています。

法人だけの創立費とは違い、個人事業主の場合でもかかる費用です。

開業するために必要な資金はどのくらい?

開業するために必要な資金は、人によって異なります。

「2022年度新規開業実態調査」によると、開業費用は250万円未満が21.7%、250万〜500万円未満が21.4%と4割を占めています。低資金での開業は増加傾向にあることがわかります。

開業費用の平均は1,077万円で、中央値は550万円です。

法人として起業する場合は資本金も必要なことに注意しましょう。資本金は1円以上であれば大丈夫ですが、運転資金を考慮する必要があります。

開始後一定期間の運転資金を用意しておくために、自身のビジネスにどのくらいの費用が必要なのか、取引先の企業規模などから考えるようにしましょう。

参考:2022年度新規開業実態調査

開業時の資金調達方法

開業するために必要な資金はどのように準備するべきなのでしょうか。

「2022年度新規開業実態調査」によると、開業時の平均調達額は1,274万円です。資金調達先は「金融機関からの借り入れ」が69.2%、「自己資金」が21.3%と、この2つで9割以上を占めています。

開業資金の平均が1,077万円なので、197万円程度は自己資金を用意していると考えられます。

つまり、全額を資金調達するのではなく、大体200万円程度は自己資金を用意しているケースが多いことが分かります。

参考:2022年度新規開業実態調査

開業費の範囲

開業費は経費ではなく資産になり、繰延資産という資産科目で償却できます。どのような費用が開業費として認められ、逆にどのようなものが認められないのか確認していきましょう。

開業費に含まれる費用

開業費として認められる費用は、個人と法人で違いがあります。

個人の場合、開業費として認められる費用は以下の通りです。

・開業のためのセミナー費用

・開業の調査のための旅費や交通費、通信費、打ち合わせにかかる費用や手土産

・開業までの借入金利

・広告・宣伝費用、周辺機器の購入費用

一方で、法人の場合、開業費として認められる費用は以下の通りです。

・広告宣伝の費用

・市場の調査費用

・印鑑や名刺の作成費用

・研修費用

これらはあくまで一例ですが、個人と法人では認められる費用の範囲に違いがあることを忘れないようにしましょう。

開業費に含まれない費用

次に、開業費には含まれない費用について解説します。

一見、開業費として認められそうな費用の中にも、実際は認められない費用もあるため注意が必要になります。

個人の場合に開業費として認められない費用の例は以下の通りです。

・10万円以上する備品(固定資産として計上)

・仕入代金(売上原価として計上)

・敷金・礼金

一方法人の場合に、開業費として認められない費用の例は以下の通りです。

・10万円以上する備品(固定資産として計上)

・事務所の家賃

・水道光熱費

・敷金・礼金

会計処理方法

開業費は経費のように思えますが、そうではありません。うまく扱えば節税にもなるため、しっかりとした知識を身に付けるようにしましょう。

「繰延資産」として資産計上

開業費は、開業だけを目的とした一時的な出費ではなく、開業後も事業を続けていくための費用です。その特性上、開業費の効果は支出した年以降も及ぶと考えられています。

そのため、会計処理上は資産として計上され、毎年少しずつ経費にしていきます。

この毎年少しずつ経費にしていく作業を「償却」といい、全ての償却が終了するまでの期間を「償却期間」といいます。

翌期以降、状況に応じて費用化

繰延資産は翌年以降、数年かけて償却、費用計上していくのが一般的です。

法的には、この間にどのような裁量で償却していくかは自由で、加減もなければ上限もありません。

つまり、開業のために必要であった出費であれば、いつでも好きなタイミングで好きなだけを償却できます。

開業したばかりの利益がないタイミングより、利益が上がってから償却する方が、節税対策になるでしょう。

開業費の節税ポイント

開業費の節税ポイントについて、以下の3つを解説します。

・開業前の費用も開業費として償却する

・レシートや領収証は保管する

・正確に記帳をする

開業前の費用も開業費として償却する

帳簿を付ける前の期間でも、発生した出費は開業費として償却できます。この期間に年数に制限はなく、開業費であれば何年前に出費したものであっても開業費に含まれます。

ただし、税務署から質問を受けた際に説明できないといけません。何年も前の自身でもよく分からない出費は、開業費として計上するのは避けた方がよいでしょう。

レシートや領収証は保管する

開業費として出費した費用のレシート、領収書は失くさずしっかりと保管しておきましょう。また、慶弔費用や、少額の交通費などレシートや領収書に残せない場合は、出金伝票に残しておく必要があります。これらがないと、開業費として認められない場合もあるため注意が必要です。

特に、何年も前の出費を開業費として扱う場合には、それが開業費である証拠をしっかり残しておきましょう。

ポイントとしては保管する場所を決めておくことです。バラバラに置いておいて、紛失しないようにしましょう。

正確に記帳をする

損をしないよう開業費を計上するうえで、正しい記帳は必須です。例えば「開業費」は資産の科目に「開業償却費」は経費の科目に記帳するようにします。

また、開業費を償却するために、減価償却資産台帳にも忘れずに記帳する必要があります。

開業日の決める際のポイント

開業費に関係するもので「開業日」があります。開業日の定義は、個人と法人で取り扱いが少々異なるため注意が必要です。

開業日を定める際のポイントについて解説します。

開業日とは

前述した通り、開業日の定義は、個人と法人で異なります。

法人の場合は、会社の設立日があるため、公的に証明された開業日として分かりやすいものがあります。

しかし、個人の場合は法人のような登記手続きがないため、開業届を提出した日や独立した日など好きなように定められます。

開業日の決める際のポイント

開業日を決める際のポイントを解説します。

法人の場合は設立日がありますが、必ずしも設立して間もなく営業を開始するわけではありません。営業準備に時間がかかる場合は、準備期間を除いて営業開始日を開業日にしても大丈夫です。ただ、準備期間も事業のうちであるため、一般的には設立日を開業日とするケースが多いでしょう。

一方で個人の場合、法人のように公的に証明されたものはありません。ただし、開業日以前に発生した売上は、事業の売り上げとしては認められず、その売り上げにかかる費用も開業費になりません。

そのため、初めての売上が出る前に開業日を定めた方がよいでしょう。

まとめ

この記事では、開業費とは何か、開業費の範囲、会計上のポイント、開業日の定め方など、開業費に関連する内容について解説しました。

正しい知識を持たないまま勢いで始めてしまうと、思わぬ落とし穴にはまってしまうかもしれません。

開業について検討している方は、開業費についての正しい知識を身に付けておきましょう。

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