事業承継税制とは?贈与税・相続税が猶予・免除される仕組みを解説

先代の経営者から後継者に経営権などを渡す際は、事業承継税制を利用できる可能性があります。事業承継を行う際は、専門家への報酬や税金など、さまざまな費用を支払わなくてはいけません。事業承継税制を利用して、税金の支払いを猶予・免除してもらいたいと考える人は、多いのではないでしょうか。

本記事では、事業承継税制のメリット・デメリットや注意点を解説します。円滑な事業承継に向け、参考にしてください。

そもそも事業承継とは

事業承継とは、会社の経営権、資産、経営者の想い、経営理念、文化などを後継者に引き継ぐことです。経営者は「組織の顔」とも呼べる存在です。後継者によっては、組織の強みや魅力が薄れる場合があるかもしれません。そのため、事業承継では、時間をかけて後継者の選定・見極めが行われます。

なお、事業承継の方法は、親族内事業承継、社内事業承継、M&Aの3つに分けられます。

事業承継税制とは何か

事業承継税制は、2009年度に導入されました。事業承継税制を活用すると、後継者は、取得した自社株式の贈与税・相続税について納税猶予を受けられます。また、一定期間要件を満たすと税額免除を受けることも可能です。

2018年度の税制改正により要件が緩和された結果、多くの会社が事業承継税制を利用しやすくなりました。また、2019年度には、個人事業主向けの事業承継税制も導入されています。

※参考:事業承継税制特集|国税庁

贈与税・相続税の仕組み・税率を解説

事業承継で発生する贈与税・相続税について、仕組みと税率を解説します。贈与・相続する金額によって、税率が変わる点に注意しましょう。

贈与税

贈与税額を求める計算式と、受け取る財産の額に応じた税率を解説します。

贈与税の仕組み

贈与税は、個人から財産を贈与された場合に課税される税金です。贈与税額を求める計算式を、以下に示しました。

・贈与税額=(受け取った財産-基礎控除110万円)× 贈与税率-控除額

贈与税の税率

贈与税の税率を以下にまとめました。

基礎控除後の財産の額 贈与税率 控除額
200万円以下 10% なし
300万円以下 15% 10万円
400万円以下 20% 25万円
600万円以下 30% 65万円
1,000万円以下 40% 125万円
1,500万円以下 45% 175万円
3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

※参考:No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁

相続税

相続税額を求める計算式と、受け取る財産の額に応じた税率を解説します。贈与税と比べると、相続税の計算はやや複雑です。

相続税の仕組み

亡くなった人から相続などで財産を取得する場合は、相続税が課税されます。以下の手順で相続税を計算しましょう。

1.課税価格の合計額から基礎控除分を差し引いて、課税遺産総額を計算する

2.法定相続分に従い、計算された課税遺産総額から各人の相続税額を計算する

3.各人の相続税額を合算し、実際の取得状況をもとに税額を割り振る

4.加算・税額控除を適用し、各人の納税額を計算する

 

相続税の税率

各人の相続税額を計算する際の税率を、以下にまとめました。

各人の課税遺産額 相続税率 控除額
1,000万円以下 10% なし
1,000万超~3,000万円以下 15% 50万円
3,000万超~5,000万円以下 20% 200万円
5,000万超~1億円以下 30% 700万円
1億超~2億円以下 40% 1,700万円
2億超~3億円以下 45% 2,700万円
3億超~6億円以下 50% 4,200万円

※参考:No.4155 相続税の税率|国税庁

なぜ事業承継税制が設けられたのか

事業承継税制が設けられた理由は、後継者の負担を減らすためです。例えば現預金を贈与された後継者は、現預金から税金を支払えます。しかし、自社株式の場合は現預金とは異なり、贈与された株式そのものを税金の支払いに充てられません。事業承継税制により税金の支払いを猶予・免除できると、資金力のない後継者でも事業承継を検討しやすくなります。

事業承継税制を利用するメリット・デメリット

事業承継税制を利用するメリット・デメリットを解説します。納税を免除してもらうには、複数の要件を満たす必要がある点に注意しましょう。

事業承継税制のメリット

事業承継税制を利用すると、相続税・贈与税の支払いが猶予されます。また、事業継続や定期的な報告・届出などの要件を満たせば、最終的に相続税・贈与税の支払いが免除されます。

事業承継税制のデメリット

事業承継税制を利用しても、免除の取消事由に該当すると、猶予されていた期間の分の利子も含め納税しなくてはいけません。将来的に免除を受けられなくなる可能性が高い場合は、事業承継税制とは別の手段を検討した方が良いでしょう。

事業承継税制には一般措置と特例措置がある

事業承継税制には一般措置と特例措置があります。一般措置は、2018年の税制改正前の事業承継税制です。特例措置は2018年の税制改正後の事業承継税制で、2027年12月31日まで適用されます。一般措置と特例措置では、主に以下の内容が異なります。

・特例承継計画を策定する必要性

・納税の猶予割合

・承継パターンの要件

・対象株数

・相続時精算課税の適用

・経営環境の変化に対応した免除の有無

・雇用確保要件

事業承継税制を利用する場合の手順を解説

事業承継税制を利用する手順を、相続税と贈与税に分けて解説します。手続きには期限があるため注意してください。

相続税の手順

贈与税について事業承継税制を利用する際は相続開始から8か月目までに、都道府県庁へ事業承継税制の申請を出してください。

審査が終わると認定書が交付されるため、認定書の写しと相続税の申告書を用意し、担保を提供したうえで税務署へ申告します。また、納税猶予期間中は、定期的に年次報告書と継続届出書を提出します。

贈与税の手順

贈与税について事業承継税制を利用する際は、贈与が発生した翌年の1月15日までに、都道府県庁へ事業承継税制の申請を提出してください。納税猶予期間中の手続きや条件などは、相続税と同様です。

事業承継税制の要件を確認

事業承継税制を利用するための要件を、経営者・後継者や会社、税制利用期間に着目して解説します。

条件1:先代の経営者

先代の経営者が以下の要件を満たすと、事業承継税制を利用できます。

・会社の代表者である

・贈与または相続直前に、一族で50%超の株式を保有し、一族のなかで筆頭株主である

・贈与時に代表を退任する

・後継者に全株を贈与する

条件2:後継者

後継者が以下の要件を満たすと、事業承継税制を利用できます。

・会社の代表者になる

・相続または贈与開始時に、一族で50%超の株式を保有し、一族のなかで筆頭株主である

・贈与の場合は、18歳以上で、役員就任後3年経過している

・相続の場合は、相続開始の直前に役員になっており、相続開始から5か月後に代表者になる

後継者が第三者でも上記要件を満たせば、事業承継税制を利用できます。

条件3:会社

事業承継税制を利用できる会社は、従業員が1人以上の一般的な中小企業です。例えば以下の組織は、事業承継税制を利用できません。

・資産保有型・運用型会社

・不動産管理会社

・医療法人

・社会福祉法人

・士業法人

・上場会社

・風俗営業会社

条件4:税制スタート後

税制スタート後5年間は、以下の要件を満たす必要があります。

・後継者が会社の代表者、筆頭株主となっている

・猶予対象株式を継続保有している

・5年平均で雇用者の8割以上を維持している

税制スタートから5年経過した後は、後継者が猶予対象株式を継続して保有している必要があります。

事業承継税制における注意点を解説

繰り返しになりますが、納税猶予期間中に取消事由に該当すると、猶予された税額に加え、利子の納付も必要になります。取消事由の一例を以下に示しました。

・後継者が代表者を退任した(やむを得ない状況を除く)

・後継者の同族関係者が、後継者を上回る議決権数を保有することになった

・会社が一般的な中小企業ではなくなった

・本業による収入が完全になくなった

・納税猶予対象株式を譲渡した

事業承継税制の利用がおすすめの会社とは

事業承継税制の利用がおすすめの会社を解説します。メリットばかりの制度ではないため、自社の状況を理解して検討しましょう。

 

将来的にも制度適用が見込める会社

親族内承継で3代目が見込める会社のように、将来的に制度適用が見込める会社には事業承継税制の利用が向いています。猶予期間が続かないと、猶予されていた税額だけでなく利子の支払いも必要になるためです。

 

経営体力の減少を防ぎたい会社

経営体力の減少を防ぎたい会社にも、事業承継税制はおすすめです。事業承継で自社株式を売買・移転する場合は、会社の純資産を原資に買取資金を返済することが多く、経営体力が下がりがちです。事業承継税制であれば、経営体力を維持したまま事業承継できる可能性があります。

 

事業承継税制以外の方法を検討した方が良い会社

事業承継税制以外の方法を検討した方が良い会社を解説します。遺産分割問題がある会社や、自社株式が低い会社は注意しましょう。

 

遺産分割問題がある会社

遺産分割問題がある会社には、事業承継税制をおすすめできません。先代の経営者が持つ財産のうち自社株式の割合が高いと、後継者以外の遺留分を侵害する可能性があるためです。なお、遺留分とは、一定の相続人に対して法律で認められた最低限度の遺産取得分のことです。

 

自社株式の評価額が低い会社

自社株式の評価額が低い会社は、猶予される税額が低いため、事業承継税制を利用するメリットを感じられません。しかも、事業承継税制を利用すると、手続き・報告などに手間と金銭的負担がかかります。

 

まとめ

事業承継税制は、後継者の負担を軽減するために導入されました。制度の要件を満たすと、事業承継に関わる贈与税・相続税の支払いが猶予・免除されます。事業承継税制を効果的に利用するために、制度の概要や取消事由をよく把握しておきましょう。

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