事業承継税制のデメリット7つを簡潔に解説|概要や活用法、よくある質問まで

「手塩にかけてきた不動産事業を、そろそろ後継者に譲りたい」と承継を考え始めると、多くの課題に直面します。なかでも後継者にかかる贈与税・相続税の負担は、懸念材料ではないでしょうか。今回は、中小企業の事業承継をサポートする事業承継税制と、そのデメリットを解説します。デメリットを十分に理解した上で利用すれば、自身の事業承継を円滑に進める、心強い手法となってくれるはずです。

事業承継の課題と事業承継税制

はじめに、事業承継で直面する課題と、その解決に役立つ事業承継税制の概要を解説します。

事業承継とは何か

事業承継とは、経営者から後継者への事業の引き継ぎです。親族内での事業承継と、社内の人材を活かした事業承継、M&Aによって外部へ承継する3つの方法があります。

経営者=株主となるケースが多い中小企業では、事業承継に際して経営権と自社株式の両方を引き継ぎます。

中小企業の事業承継の課題

中小企業が親族に事業承継する場合の多くは、生前贈与や相続の形で、経営者から後継者へ自社株式が引き継がれます。その際に課題になるのが、贈与税・相続税の問題です。

とくに経営が順調な会社を引き継ぐ場合は、株式の評価額が大きくなり、後継者に多額の贈与税・相続税がかかる可能性があります。事業承継のために後継者が多くのキャッシュを用意しなければならず、負担が大きいという課題があります。

事業承継税制は、中小企業の事業承継の課題解決

事業承継税制は、中小企業の事業承継にあたっての課題を解消し、円滑に承継を進めるために制定された制度です。恒久的な制度である一般措置と、事業承継のハードルを下げ利用しやすくした時限措置(特例措置)があります。特例措置の期間は2018年~2028年の10年間です。

事業承継税制は、中小企業の事業を承継する後継者にかかる、相続税や贈与税の負担を軽減する目的で始まりました。納税の猶予・減免や、要件を満たした後継者には猶予された税額の免除も定められています。

事業承継税制7つのデメリット

事業承継税制を利用する前に、注意しておきたいデメリットがあります。7つの観点から解説します。

事業承継税制の基本は、納税の猶予

事業承継税制は、要件を満たした後継者の贈与税・相続税の納税を猶予する仕組みです。あくまで納税のタイミングを先延ばしするだけであり、納税しなくて良いわけではありません。納税の免除が基本ではない点に注意が必要です。

納税が免除となるのは、後継者の死亡といった限られたケースのみです。

また、事業承継税制には一般措置と特例措置の2つがあり、どちらを選択するかによっても、猶予される税額や対象株数が変わります。

事業承継税制の承認要件が細かい

事業承継税制を利用するためには、国税庁が定める要件をクリアしなければなりません。認定を受けるための要件は細かく、クリアに手間がかかる点もデメリットです。

事業承継税制の認定要件は、主に4つあります。

・会社の要件

・後継者(受贈者)の要件

・先代経営者(贈与者)の要件

・制度適用後の要件

要件について詳しくは、国税庁ホームページ「法人版事業承継税制」で解説されています。

特例承継計画の策定・手続きに多大な労力がかかる

事業承継税制は、利用のハードルを下げた特例措置が行われている最中です。ただし、特例措置を受けるには、以下の労力がかかります。

・定められた期間に、都道府県知事に申請する

・事業承継が完了するまで/後継者が承継してから5年間の経営計画(特例承継計画)を策定する

・特例承継計画の提出にあたっては、専門家の所見が必要

特例計画提出に関わる専門家は、国の認定を受けた公認会計士や税理士、金融機関など(認定経営革新等支援機関)です。

納税猶予が取り消される場合がある

一度認定された納税猶予が、取り消されるケースがある点も、事業承継税制のデメリットでしょう。万一、認定が取り消されると納税の猶予が打ち切りになり、速やかに納税しなければなりません。

納税の猶予が取り消される事由は「決められた報告・届出を怠った」「後継者が代表者ではなくなった」など、多岐にわたります。また、事業承継税制が適用された直後の5年間がもっとも厳しく、要件を1つでも満たせなくなると猶予が取り消されます。

事業承継から5年が経過した後は要件が緩和されますが、取り消しの可能性はゼロにはなりません。

廃業すると利子税が発生する

事業承継税制の認定を受け、適用が始まった後に廃業となる可能性もあります。その場合、猶予されていた贈与税・相続税の速やかな納付に加えて、利子税も支払わなければなりません。

利子税は、納税が猶予されていた期間が長いほど、金額が大きくなります。

事業承継税制の適用開始から5年経過以降は、経過した5年間の利子税は免除されます。また、特例措置を利用している場合、経営悪化による廃業は「廃業時の価額で納税額を再計算する」という減免措置があります。

事業承継税制の申請時に担保を用意しなければならない

事業承継税制利用して贈与税・相続税の納税猶予を受ける場合、猶予される額に相当する担保を提供しなければなりません。提供する先は、国税庁です。

担保と見なされる財産の一例は、以下のとおりです。

・国債、地方債

・社債、その他有価証券

・土地

・建物等で保険に付したもの

・税務署長が確実と認める保証人の保証 など

猶予額に見合う担保が用意できなければ、猶予対象となる非上場株式全てを担保にする場合もあります。

M&Aを実施しにくくなる

事業承継税制の適用中にM&Aを実施し、第三者に株式を譲渡する可能性はあるでしょうか。もしM&Aを実行すると、それまで猶予されていた相続税・贈与税、さらに利子税を支払う必要が生まれます。

事業承継税制の適用中は、M&Aの実施が難しくなると押さえてください。

ただし、事業承継税制の適用から5年経過後であれば、猶予税額の一部が免除される減税措置が適用されます。

事業承継税制3つのメリット

デメリットも多い反面、事業承継税制ならではのメリットもあります。3つの観点から、事業承継税制のメリットを解説します。

相続税・贈与税の納税が100%猶予される

事業承継税制の特例措置を申請・特例承継を提出して要件を満たせば、相続税と贈与税の全額を猶予してもらえます。事業承継に当たって当面の税負担が軽減されれば、後継者の資金を事業に回し、経営の安定を図ることも可能です。

事業承継税制は個人事業主も利用できる

事業承継税制は2019年に改正され、個人事業主も利用できるようになりました。個人事業主は、法人以上に資金調達に苦労しやすいため、事業承継税制の門戸が広がったことは朗報です。また、個人で事業承継税制を申請する手続きは、法人よりシンプルです。

事業の継続が困難な場合の特例措置がある

事業承継税制では、制度適用後に経営状況が悪化し、事業の継続が困難になった場合に備えた特例措置も設けられています。正当な理由によって廃業した場合でも、相続税を再計算し差額が免除されます。後継者の承継に対する心理的・金銭的負担の軽減につながるでしょう。

事業承継税制に関するQ&A

ここからは事業承継税制に関して、よくある質問にQ&A形式で回答します。

事業承継税制は、いつまでに申請しなければならないか

現在行われている事業承継税制の特例措置を利用するためには、特例承継計画を2024年3月31日までに提出します。特例承継計画は、提出した後に変更しても構いません。

承継そのものは、2027年12月末が期限です。その他、提出期限が定められている書類もあります。

先代経営者が、10年以上前に代表取締役を退いている。その場合も事業承継税制を利用できるか

事業承継税制は、先代経営者の辞任時期を定めていません。10年以上前に代表取締役を退いていても、認定要件を満たせば、事業承継税制を利用できます。

事業承継税制を利用できる後継者の要件は何か

事業承継税制の特例措置が定める、後継者が贈与時に満たさなければならない要件は、次の5つです。

(1)会社の代表権を有する

(2)18歳以上

(3)継続して3年以上会社の役員である

(4)50%超の議決権数を保有する

(5)議決権数が要件を満たす(特例措置)

特例措置が定める後継者の要件は、後継者の人数によって異なります。

雇用している従業員がいない場合でも、事業承継税制を利用できるか

事業承継税制を申請する時点では、従業員がいなくても構いません。ただし、贈与・相続を行う時点では、1人以上の従業員の雇用が必要です。

事業承継税制を効果的に活用するには

事業承継税制は、対応できる専門家が限られるほど要件が複雑です。また、制度の開始から間もないこともあり、事業承継税制を利用し承継に成功した事例も少ないのが現状です。

事業承継税制の利用にあたっては、詳しい専門家のサポートを受けたほうがよいでしょう。また、事業承継税制は、計画の策定や手続きに時間がかかります。事業を後継者に引き継ぐ計画を入念に立て、早めに着手するようにしましょう。

まとめ

事業承継税制は、中小企業の事業承継を税制面で支援する制度です。要件を満たせば、中小企業が直面しやすい贈与税・相続税の全額納付猶予が受けられます。

ただし、手続きは煩雑で、専門家の助言も欠かせません。不動産事業の承継にお悩みなら、株式会社ハウスドゥ住宅販売にご相談ください。株式会社ハウスドゥ住宅販売は、東証プライム市場上場企業である株式会社And Do ホールディングスの100%子会社です。

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